彫り物

 朝の内は晴れていたが、10時過ぎあたりから雨になり午後になり雨は強く降る。
 昨日だが、裏の狭い路地に車を停めて積み込み作業をしていたら、東側の裏の奥さんが来て、家の中を見たいと言う。 どうぞどうぞと言う。
 裏の奥さんの家は戦争中の空襲で焼けたのだそうだが、道を挟んだここの家は焼けなかったので小さい頃しばらくここの家で過ごした事があるのよ。 とのことである。 大きな仏壇があるのを見て、まさか奥さんのお骨は置いてないでしょう、と深刻な顔をして言うので、笑って、それはないですよ、と答え、でもこの古い仏壇は処分するしかないんですよねぇ、と言うと、そうですねぇ仕方ないわ、と答えた後、ここに住んでいたお爺さんの話をしてくれた。
 阪神淡路大震災の前ごろから、あの男がこの家に住むようになったんですよ。 その内ある日何人かの人が集まってきて、今日は結婚式だ、と言って・・・もう朝から飲むや唄うやの宴会が始まって、夜は夜中まで近所迷惑もなしに大きな音でカラオケですよ。
 アハハ・・・そう言えばカラオケセットと沢山の演歌のテープがあったなぁ・・・
  実はねぇ・・・ここの家の奥さんはその前にもまた別のおかしな男を連れ込ん一緒に住んでいたことがあるんですよ。 ウチとは親戚で、こちらの家が本家筋なんですがねぇ。 ある日誰かお客に男の人が来ていたのですが、夜になって酒を飲んでいてお客と男と殴る蹴るの大喧嘩が始まって、とうとう最後は救急車が来て二人を連れて行ったんですが・・・その時二人とも背中に彫物を入れているの見たんですよ・・・と聴きもしないのにひとしきり昔の話をしゃべった後奥さんは帰っていった。


 そうだったのか・・・一見おとなしそうなあの爺さんは昔はその筋の男だったのか・・・まったく気が付かなかった。
 そう言えば、アパートを捜して連れて行ったりしての世話をしていても、すいませんなぁ、とか、世話を掛けますねぇ、とか、ありがとう、など一度も言ったことがなかったし、その気もまったくないようなので、おかしな人だなぁ・・・思ったものだったが・・・
 

 オフは自分の祖父がその昔、博打の貸元をやっていたせいかどうか分からないが、ヤクザさんをとくに毛嫌いしたりすることはなかったし、比較的悪いイメージなどは持っていない方だった。 前の仕事が遊技場の経営者サイドという仕事だったので、その手の人とはお客としてとか、従業員としての付き合いは普通の人よりままあったほうだ。 その中には少し苦い思い出もないことはない。
 一時パチンコ店はフィーバーブームやスロットマシーンの導入でやたら儲かった時期があった。 そうなるとその手の連中が狙いを付けて来る。 その手の人たちは今何の商売が儲かっているかよく調べていて、まあ、それが仕事なのだが(笑) 酒や女、ギャンブルがらみの巧妙な仕掛けに嵌めて、お金をゆすっていく。 オフもよく知っているある経営者は、スナックに勤めるその手の女との間に子供までつくってしまい・・・強請られて半端な額では収まらなかったものだ。
 オフも、お前ところの従業員が飲み屋でしでかしたトラブルを収めよ、と不当な額の金を要求され、拒否すると、翌日連中に取り巻かれ近くの線路の横に連れて行かれて、一人がそれとなく腰に差したドスを見せたりして脅された。 おかしなもので相手がドスをそれとなく見せた時から、こいつらは本気で差す度胸はないなぁ、と思い落ち着いてしまい、差せるなら差してみろ、と逆に根性が据わったものである。


 また、従業員として使った男の中に、背中から二の腕にかけて彫り物をしていたのがいた。 昔はやんちゃをしたが、真面目にやりますので使ってください、と言って入ってきたのがいた。 その言葉どおり真面目だったとはいえないが、半年間は比較的まあまあ大きなトラブルもなく働いていたし、オフも飲みに連れて行ったりして他の従業員以上に影に日向に目をかけていた。
 ところが丁度働き始めて半年過ぎた頃、お客とつるんで不正なことを大っぴらにやり始めた。 店には大勢の目があるのでそんな話はすぐ伝わって来るので、即刻クビにした。 ところがその後労働基準監督署から電話があり、これこれの者を突然解雇したのは基準法違反で、その者に一か月分の給料を余分に支払いなさい、と言ってきた。 あの男はお客とグルで不正をして店も大きな損害を受けているのだ、と言うが、それは別の問題で、被害があったのなら被害届けを警察に出して告発しなさい、との返事だ。 泥棒に追い銭、とはこのことなのだが最初から仕組んでいたと分かっているだけに煮えくり返る思いでその男に金を払った。 その金を払った翌日、なんと夜中に正面玄関のドアが何者かに割られていたということがあった。


 今日の仕事

 姫路でサイドボードなどの家具、茶碗などの陶磁器、畳などを美化センターへ廃棄のため持ち込む。