家造りについて思う

 今日、不動産屋の仲介でこの家の新しい買主と契約書を交わし、手付金として一部の金を受け取って領収書を切った。 


 オフは大工でもなんでもないが、日本の古民家が好きで現在はそれの改修を行なってそれで幾ばくかのお金を稼いでいる。
 この大工仕事をしながらポチポチと耳に入ってくることこら考えれば、極端な話もう修行して技術を身に付けた大工など必要なくなっている時代が来ているのだと思える。
 現在日本の家を大きく分けると地元の大工さんが造る家と、いわゆるハウスメーカーが造る家とがあるのは誰でも承知のことだと思う。
 田舎では十軒ほどの家が建つこじんまりとした分譲地があると、そこに建っている家の多くは大小のハウスメーカーの建てた家であることが多い。 、その分譲地の近くにたいてい立派な農家の家が一軒あるもので、それが田んぼを潰して分譲地として売って建った農家の家で、それはたいていその家は地元の大工さんが請け負って建てていることが多い。 それから考えるとある程度の住み分けをしながら大工さんの仕事もある訳である。
 だがその内実は変わってきている。 まず大工仕事というのは家を建てる前に大工小屋で柱や梁などの構造材にホゾやホゾ穴などを造る仕事があるが、その仕事は現在はほとんどプレカットと言われるコンピュター付きの機械で短時間で行なわれている。 それに付け加えるならプレカットは曲がりなどのある材は使えないので、プレカットでは材を接着剤で貼り合わせた集成材を使うことが多くなってきている。 それには大工さんが作る伝統的な家でも現在の家は、内壁も外壁も大壁と言って柱などを建材の内部に入れて隠してしまう家作りが主流になってきているからである。
 それまでは日本建築は真壁と言って、日本間を思い浮かべてもらえば分かるように、柱が表に出て柱と柱の間の壁は塗り壁で仕上げてきていたものである。 大壁にして隠れてしまう柱や梁など集成材で十分だと考えられるようになっていった。 そして集成材もプレカットも幾分安く仕上がる値段になっている。 伝統軸組工法で建てられた家でも大工さんの仕事つまり手間賃が大幅に少なくなっている訳である。 大工さんから仕事が来て材木を大きさに製材していた町の材木屋も同じことが言えるのである。 
 ハウスメーカーの追い上げににさらに拍車を掛けたのは、十数年前の建築基準法の改正で、アメリカなどのツーバイフォー工法で建てる家が日本でも認められた。 今から十何年か前にアメリカなどから洋式住宅が盛んに輸入されて田舎などでも外壁が黄色やオレンジ色のおかしな家が建てることが流行った。 しかしそれらの家を造る流れは今は下火になったが、数年もしない内にその工法を日本のハウスメーカーが取り入れて安い家を作り販売しはじめていった。 この工法で建てられた家は、日本の大工さんが安い材を使いギリギリ手抜きできるところは全部手抜きして、しかも自分たちの手間賃を下げてやっと対抗できる程度の値段で出来るのである。 そのような家は何とか20年ほど持てば良いような家である。 人々が家なども車と同じで、古くなってあちらこちらが痛んでくれば買い換える商品と考えるような人々にとっては、それもありであり、それでもよしなのである。
 そのような家が主流になってくると、大工さんは自分が修行して身に付けた技術に頼っていては仕事がない。 そこで技術はいらないハウスメーカーの仕事安い手間賃で仕事をすることになる。 ハウスメーカーは最近は手間賃が高い大工を使わないでも、アルバイトでもすぐに出来るような家造りの仕様にしてきて出来るだけ安く、というか人件費を下げる方向に向かっている。 大工さんについて書いてきたが、これは大工さんだけでなくすべての職人について言えることなのである。 グローバル化、コスト万能、市場競争原理などなどと言われてあらゆる分野で競争が言われているが、地方の真面目な職人たちは仕事の場や、その技術を生かせる仕事がどんどん減ってきている。 


 今回のオフが改装した家は、戦後すぐの時期にこの地に建てられた家であるので、建ててからすでにおおおよそ60年建っている。 今回和室の縁の下の大引き、根太、柄などを新しくしたのでこれらはこのままでさらに60年は大丈夫でだろう。 柱は一本もシロアリは入っていなかったし、こも先もおそらく大丈夫と思える。 さらに驚くことにはこの家はこの地へ移築される前には、この家は少し離れたところに数十年前から建っていたのをこの地へ移築して立て直した家だと訊いている。 だとするとすでに100年ほどは経っているのだし、この先少々のメンテナンスさえ怠らなければさらに100年は持つだろうと思われる。 家というものは本来そういうものであるべきものであると考える。 だからこそオフは今この仕事を手掛けているのである。


 契約を済ませたので、神戸の嫁さんのところへへ行く。 明日姫路に行って競売の入札をする。 来週まで神戸で過ごすことになる。