因果譚

 昨日来てくれていた大工さんは綺麗な仕事をする上に仕事が早くて、いわゆる腕の立つ職人である。
 これは前にも書いたかもしれないが、この大工さんの奥さんは家を出ていて、その家を出た奥さんから離婚の話が出ている。 酒は飲まない、遊びもしない、趣味は仕事と言うくらいだからもちろん腕は立つ、が奥さんは一緒に住むのが嫌だと家を出ていった。 子供は二人いて兄貴ははフリーターで、弟は大学生。 ところがこの大工さんは婿さんであるから、奥さんは自分の実家を出ていったことになる。 大工さんは嫁さんに帰って来て貰いたいが、自分には何の落ち度もないと思っている。 ところが世間では影で、大工さんが奥さんを追い出したと言っているらしい。 それは頑固である上に融通が利かないので、世間からもおかしな人間という風に見られているからだろうと思うが、とにかく大工さんとしてはどうして良いのか分からないまま、心に重苦しいものを抱えている。 そこで彼は今の家は十年前に自分で建てた家だが、こんな家はいらないからその家を奥さんにわたし自分が家を出て何処かに家を借りて暮らすと言う。 しかしよく訊いてみると、家のローンが残っていて、それに月々十数万円払い込みしなければならないらしい。  そんな家を貰っても女手一つで奥さんが払い込んでいける訳がないだろう。 そんなこと重々承知で言っているならそれは悪意がらみな話である。
 昨日仕事をしながら、ポツリと毎朝5時ごろに起きて西脇市まで出掛けているという。 何をしに行っているのかと訊くと多宝塔というお寺へお経を上げに行っているらしい。 霊法会とか言う宗教団体に最近入会して、奥さんと上手く行かないのは、あんたの持っているこれまでの悪い業や因縁から来ていると言われて、たしかにそうだと思ったと言う。 そこで毎朝一時間お経を上げに行き、夜は夜で行けるかぎり自分を導いてくれた人と法座に出席していると言う。 お経を上げたり、法座に出ると少し心が安らぐと言う。
 また宗教である。 まったくやれやれな話であるが、このような人、あるいは話は、現在の日本に少なからずと言うか、かなりの数あるのだろうと思う。 自分が決定するあまりにも自由な選択とその責任のツケが、思わしくない方に出た場合、最後は必然の話、つまり因果譚にすり替えて貰うことで救われたいと思う、あるいはホッと安心したいのだろうが・・・


 今日の仕事


 ここのところ大工さんが入って階段と付け替え、内玄関のマグサを取り外し、位置を上げて取り付けなどをした。 それに伴って大壁部分を取り外したりしたので、胴ブチや化粧ベニヤなどが沢山でた。 それらを外へ運び出し焚き火にくべて燃やす。 左官屋は来た日には朝一番に火をおこし焚き火をしてくれる。 おかげで当初から沢山出て積み上げてあった木材はだいぶ減った。 ところが途中風が強くなり一時まわりの木材に火が燃え移らないかとヒヤヒヤする場面もあった。 その間二階から階段、一階玄関の渡って掃除をしたり便所の前の壁を半坪落としたりした。
 午後からは落とした壁の横の壁を逆にベニヤで仮に塞いでおいた。 その後一階和室の二度目の塗装をするが、途中から和室のコンセントの線が梁にむき出しで這わせてあるので、せめて横に這う線だけでも二階の床下に入れるための配線をはじめる。