昔の話 4

  話をオフの側に戻そう。 小学校時代は暗くおどおどした少年だったが、中学校へ行くようになってからかなり積極的になった。
 高校時代はやや不良、と言っても所詮田舎普通科のはみ出し程度である。 大学は都会の私学。 そこしか受からなかったのもあるが、だが学費は自分で払っていた。 というのも補欠で育英会の特別貸与奨学金を貰えたからであるが・・・祖父からは毎月の生活費だけを送って貰っていた。 
 ところが授業に出ない、成績は不振、奨学金は打ち切られ、デモに行って逮捕され、そのことが家に通報があり、それに怒った祖父は仕送りを打ち切った。 その内授業料を払わないものだから、いつの間にか大学から除籍されていた。 その後もいろいろあるのだが、それにはここで触れない・・・ 結局家から勘当扱いにされたのだが、内心は育てられた負い目があり心苦しいものがあったが、家へ帰らないそれこそオフの願うところであった。 大学は関西であったが東京へ出て、新聞の募集で見つけた仕事をしていたが、女と知り合い同棲して働かないで一年間食わせてもらった。 
 その内東京は嫌になり、考え付いたのは山の中へ行って椎茸栽培。 そのために元金として300万用意すること。 そのためにまた働き出した。
 短期間でお金を貯めるためワンセット15万もする鍋売り、あやしいセールス。 それでも毎月10万貯金し1年で100万貯めた。


 少し前から、田舎へ帰るようにと、何度も声がかかるがその都度断っていた。 女とはすでに入籍を済ませていて、お腹に子供が出来ていた。 妻の里から100万プレゼントされたので、あと、一年だ、100万だ、と思っていたところへ、祖父が高血圧で倒れ入院した。 このままでは会社も危ないつぶれるかもしれないとの連絡が入る。 何処で働いても後100万だ、椎茸はしばらく棚上げしてとにかく会社を立て直してからにしようと思った。
 ところが帰ってみると嘘八百とはこのことで、祖父は血圧こそ上が200と高いが、家にいるではないか。一方会社が危ないと言うのは本当で 新しい店は後二ヶ月で開店するという段階なのに、銀行がこれ以上金を融資しないと言っているので、店が完成しても受け渡し出来ないという状態だった。 機械屋に勧められるまま都会の設計事務所の言いなりで建設費が一億近くにまで膨らんでいた。 しかし、このまま捨ててつぶしては銀行も元すら取れないので、追加融資を受け何とか店は開店した。
 田舎の郊外にコンピューターで補玉を管理する最先端の新しいパチンコ店が開店、都会の設計事務所の手配で業界紙が数ヵ月後に取材に来た。 その時来た業界紙の記者は、新しい店でこんな暇なパチンコ店は初めてだ!と申し訳なさそうにつぶやいていた。
 とにかく運転資金がない、分かっていても出玉率を悪くするしかない。 そうすればお客はたちまち散って来なくなる。 売り上げが下がる。 悪循環である 
 そこで、どうしたか・・・役員は給料は一応貰うが、全額そのまま会社に貸し付け、その金を運転資金に使う。 つまり毎月の給料が一銭も手元に残らない訳である。 役員はそれぞれ自分の店を経営しているから食うのは困らないので、それでもなんとかやれた・・・オフも手元に200万あったし、実家からその都度援助もあったから何とかしのげた。
 役員はそうでも、従業員の毎月の給料は払わないわけにわけにはいかなかった。たとえ1万円でも気は心で支払っていたが、ある年の暮れそれも出せない状態になって、誰かのアイデアで何と暮れのボーナスがミカン箱一箱ということがあった。 その夜、オフは明日から従業員は一人も来ないだろうと思い、夜一睡も出来なかった。 次の日従業員の顔を見た時、おもわず涙が流れたことがあった。 その頃は従業員は全員女だったが・・・男は給料が高いので使えなかったからである。 世の中は高度成長経済で、毎年給料やボーナスが増えるのが当然、それが楽しみという頃の話なのである。
 
 
  今日の仕事


 昨日貼った脱衣所のタイルだが、どうも失敗している。 何箇所かちゃんと接着していない。
 問題は複数考えられる。 まず第一は下地のモルタルが平らでなかったということ。 ここには以前樹脂系のビニールクロスの床材が貼ってあった。 素材が柔らかい一枚ものなので多少のデコボコがあってもどうという事はなかった。 それに今回浄化槽へ洗濯機の排水溝を新たに設けたので、そのモルタルと以前のモルタルの取り合いが上手くいっていなかったこれが大きい。 次にタイル自体を20センチ角と床にはやや大きいものを使ったのが不安定にした。 第三に目地をあまり取らないでタイルを貼ってしまった。 タイルを貼るときわざわざ目地を設けるのは、くっ付けておくと隣同士が持ち持ちになって不安定になるのを防ぐためがあるのだろう。 もう一日置いてほんの少ししかない隙間に目地材を入れて、それでも不安定なタイルが幾つかあるようだと仕事はやり直しとなる。 そうなれば今度は昔のようにモルタルをして、すぐその上にタイルを圧着していこうと思う。
 昨日風呂へ入ったせいか、風呂場の壁面のモルタルはまだ少し湿気ているのでタイル貼りは明日にする。
 
 玄関と裏の勝手口の土間を珪藻土仕上げの土間にする仕事に入る。 まず、土間のコンクリートの上を綺麗に掃除して水を流しデッキブラシで洗う。 珪藻パウダーと言う名前の商品を水を加えて練り上げ、それを土間の上に塗り付けていく。 説明には最低でも厚さが15ミリ以上いると書いてある。 玄関と勝手口で1.5坪強あるが20キロの袋を全部で4袋使う。 夏場のせいか乾きが早くすぐに水気が抜けて伸びにくくなるのでかなりやりにくい。 もう一人相棒がいれば鏝で均す人と、生地を練る人とに分かれてやってちょうどのような仕事だ。 かなりデコボコになるがお昼過ぎに乱暴だが何とか塗り終える。 午後から鏝で均そうとするが、高いところだけは少し押さえることは出来るが上手く行かない。 3時頃から掻き落としという作業に入る。 デッキブラシで回転するようにこすって高いところを掻き落としていく訳だ。 掻き落として粉になった上からさらに平らな板でこすり、不陸を取っていく作業をするわけである。 最後にブラシで粉になった珪藻土を集めて捨てる。 それをすると全体に少しは平らになったが、掻き落としたところはガサガサした表面になってしまう。 この後明日にでも表面硬化剤というものを塗って乾かして出来上がりだが、硬化剤で少しはすべすべした表面になってくれれば良いのだが・・・