百足

 昨夜のことである、寝返りを打った瞬間、背中側の腰の辺りにチクリと痛みが走り、乾いたカサカサという何かが動く音がした。
 一瞬で目が覚めて飛び起きた。 真っ暗にして寝ていたのでよく分からなかったが、おそらくムカデに刺されたのではないかと思う。
 これは大変なことだ!と青くなった。 オフは今まで一度もムカデに刺されたことはない。 訊くところによると、その後ひどく腫れて痛がる人と、さほどでもない人といると言う。 とにかく薬、薬・・・と思うが手元に虫刺されの薬などない。 傷をした時に塗っている名前も分からない軟膏をとりあえず塗っておいた。 眠気が吹っ飛び目が覚めてしまい、しばらく眠れそうもない。 仕方なく酒を飲むが、血の巡りがよくなった分刺されたところの痛みがさらに増して来るような気がする。
 昔、下の息子が竹藪の近くのアパートで寝ている時、ポタリと音がして天井からムカデが落ちてきて、カサカサとあたりを這って歩いたことがあったと言う。 それ以来少し神経質なところのある息子は夜安眠出来なくなり、とうとうその後アパートを引っ越したと言っていた。 あんな大きなムカデを見たことがない、と強調していたので・・・アハハと笑っていたが、ついにオフもムカデに刺されてしまった。
 その内に酒が回ってきたので、もう一度薬を塗ってから、眠りについた。
 今朝起きると、痛くも痒くもない。 どうやらオフはムカデに強いタイプの体質らしい。



 今日の仕事


 昨日の予定では今日もう一つのテラスサッシが持ち込まれそれを納めて、枠に戸を入れてサッシ窓の仕事は終わるはずであった。
 ところがである、今日の終了の時点で、せっかく取り付けてあった最初のテラスサッシも外し、途方にくれている状態なのである。
 業者の都合で納品が朝十時から午後三時に遅くなった。 それはとくに問題はない、その間別の仕事をしていれば良いのだから・・・。
 その間に、風呂場の壁面のタイルをダイヤモンドカッターを付けたグラインダーでカットしたり、ホームセンターへタイル用接着剤やセメント、砂、砂利などを買いに行ったりしていた。
 ついでに市役所へ寄り、合併浄化槽の補助金を早く出してくれ催促してきた。 来週中にも検査に伺い、振込みはその一ヵ月後です、という返事である。 検査済みの書類が上司の机の上に乗っている期間が一ヶ月間ということなのだろうが、なんとも悠長な話である。
 世の中にはバブルがはじけた後、破産件数がうなぎのぼりになって一日で机の上が書類の山になってしまうのに根を上げた東京の裁判所が、それまで1週間後に取りに来てくださいと言っていた決済が、その場で一時間ほど待てば持って帰れるようなったというありがたい話もあるのだ。 その気になればすぐにでも出来るんだろう? 市役所さん。


 さてテラスサッシであるが、昨日枠を取り付けた分にテラス戸を入れてみた。 戸を入れて滑らしてみると真ん中部分が少し広がっていて戸が外れそうになるのでビス止めをやり直す。 ところが柱を垂直に直したはずなのに戸を閉めようとすると柱際で上部や下部に隙間が出来てしまう・・・縦は垂直だが水平方向が傾いているからである・・・と言うことは・・・床が傾いているのである。 測ってみると両端で一寸(3センチ)の傾きがある。
 仕方なしに枠をまた外して、下部にもナマズ状の板を入れ、上部の板も取り付け直して水平にする。 そしてもう一度枠を取り付けるが、サッシ枠が片側が床より下に、もう片側は床より上に出るという状態になって、なんとも見てくれが悪くなってしまった。
 それにもう一つのサッシ枠も横のサッシ枠と並ばず、段チに取り付くことになるのも外から見ていかにもドン臭い仕事に見えるのだ。 さて、さて、どうしようと思案にくれているうちに夕方、時間切れになってしまった訳である。

 じつはこのようなことは前に和室の裏の縁側でも起きていたのだ。 その時は最初サッシ枠だけを水平、垂直に入れたが、やはり見てくれが悪いので床もサッシに合わせて水平にした。 すると今度はどうなったかと言うと、水平な縁側の床と和室の敷居とが×点のようになり、見るからにおかしな状態になったが、それ以上はどうしようもなくそのままにしてある。 裏の縁側はもともと押入れを床にするという仕事だったし、床を新しくするのも仕事のうちであったし、長さもたかが知れていた・・・今度はそれをすると四間(8メートルほど)と長いので、これは大仕事になる。
 考えてみると床も傾き柱もそれに合って傾いていても、捻れているのでなければ、それはそれで良かったのかもしれないなぁ。

 昔、大工さんが古い家はどんな家でも傾いている、と言っていたがその通りである。 この家の近くにも大きく傾いている納屋などがあるが、倒れない。 それは日本の昔からの在来軸組み建築はホゾを使って締めているからである。 ある程度家は傾くのだが、それ以上はホゾが効いて逆に家は締まるのである。 ホゾが締まることによって、古い家は傾きながらもミシミシいいながらも風雪に耐えるのである。