真夏に寒くなる

 今日の仕事


 縁側の前に組んであった単管の足場を外して、元便所の横の壁面に組みなおす。 昨日モルタルを塗ったが、この後中塗りに砂漆喰、上塗りに漆喰と塗って壁を仕上げて行かねばならない。 少し面倒でも足場を組んだほうが仕事がハカが行くし、身体も疲れも少ない。
 そんな仕事をしていると先日間違えて引き取ってもらった上げ下げ窓とルーバー窓が届く。 今度は仮止めする前に確認したが、間違いなく両方の窓が上下するタイプである。 土蔵の中に置いたあったそれを嵌めようとするが、どうしたことか以前に組んである枠に入らない。 測ってみると4分(12ミリ)ほどサッシのほうが大きい。  この窓は二個注文したが、両方とも同じである。 前に間違って来た窓はサイズがあっていたというのに・・・縦の枠を取り替えて新しくしようとしたが手元に材がない。 少しみっともないが下の横枠を外して縦枠に木片を継ぎ足して下枠を留める。 今度は間違いなく入ったので、やれやれと遅いお昼にした。
 ところが昼飯を食べている時にサッシを室内側から取り付けていたことに気が付いた。 図面を見て組んだ枠のサイズは間違っていなかったのだ。 とにかく自分に腹が立つ。 腹が立つので、どこかの球団の監督の名前を大声で連発する。 この監督は幸か不幸か紛らわしい名前が付いているだけなのに、見も知らぬオフなどから如何したわけか分からないまま名前を連呼される羽目になってしまう。
 午後からは継ぎ足した枠を元に戻して、外側からサッシ窓を入れるとピッタリとはまる。

 最後に二階にルーバー窓を取り付ける。 開口部の外に梯子を立てて、その下に脚立を置く。 複層仕立てのガラスの窓はとにかく重いのだ。
 何とか窓サッシを脚立の上まであげておいて、梯子に登ってサッシ窓を持ち上げて枠まで持っていく。  窓サッシは枠に入れたが手を離すと前に倒れてくる。 ところがドライバーの置いた位置が少し下だったので手を伸ばしても届かない。 その内に梯子が横に少し傾いたので、身体を浮かすようにして梯子を真直ぐにしようと動かしたが、悪いことにまた少しよけいに傾いてしまった。 見下ろすと梯子の足の片側が土にめり込み始めている。 先日壁土を落としたその上に梯子を乗せているし、それにオフの体重が掛かっているのだ。 サッシ枠を押さえている手を離せない。 サッシを止めるにもドライバーに手が届かない。 梯子は傾きはじめている。 とにかく下手に動かないことだと思いなおす。 すぐ近くでツクツク法師が大きな声で鳴いているのを訊きながら頭の中で、手を離すとサッシが落ちる・・・下手に動けば梯子が横に倒れる・・・と何度もオサライしながら身体を動かさないでジッとしていた。 声を上げて誰かを呼んで梯子を持ってもらうのが一番だが・・・隣の家はさっき電話が鳴っていたが誰も出なかったようだし・・・なさけない気分になってきて、これだから一人仕事は駄目だ、駄目なんだ、とぶつぶつつぶやくだけである。
 しかしそうしていてもどうしようもない。 体重を傾いた梯子の反対側に掛けて、サッシを枠から外し土壁の上に乗せる。 そろそろと手を離すが動かない。 シメシメと思い息を詰めながら梯子を一段づつ降りた。 地上に降りたときはホッとして全身の力が抜けた。 その後の動きは早い、近くにあった板の上に梯子の両足を乗せて、途中でドライバーを手にして梯子を上り、重いサッシを枠に再び乗せて、とにかくドライバーでビスを一つ止めたが、その時は、最後のバッターを三振に取った時のように心から、ヤッタァ!と思った。 考えてみれば何ということはないのになぁ・・・