大工さんの訃報

 正月に田舎へ帰って山の家の雪下ろしをしなければならない、そう思いながらこの間ネットで雪の状況を見ていた。 
 ドカドカ雪が降っている中で雪下ろしは大変である、もちろんそんな悠長なことを言っておれない状況の場合もあるが・・・
 山の家の下のアヤメ婆の家の嫁さんから電話があり、そろそろ雪下ろしをすると言ってきた。 聞くと旦那は郵便局勤務だからこの時期忙しくて正月開けの4日まで休みを取れない、それまで待っているのは怖いから、知り合いの土建屋に雪下ろしを頼んだ、と言ってきた。 それまで業者に頼むなどと思いつかなかったがその一言で、ああ、その手があったんだなぁ、と気がつく。 雪道の高速を緊張しながら運転して帰って、屋根に上がり雪下ろしをして疲れ果て、また高速を帰ってくることの大変さを思えば、今回はオフも業者に頼むことにした。
 そこで思いついたツテは山の家の屋根のやり変え仕事をしてくれた近所の大工さんである。 ところが携帯に何度電話しても返事が来ない。
 大工さんの家の電話番号を調べてくれるように田舎の友人に電話すると、彼はいきなり電話口で、その大工さんなら死んだよ、と言うのである。
 ええっ!と飛び上がるほど驚いた。 今月中頃に壁や天井を壊す手順について電話して尋ねたばかりだったからだ。 その時彼はまず壁から壊していったほうが良い、と教えてくれた。 じつは彼に前に頼まれていくばくかのお金を貸しているが、その時電話口で正月前には幾らか返すつもりでいるのでよろしくと答えていた。 そうそう、その後も根ガラミが虫食いになっていたことで相談の電話したが、その時は彼は電話に出なかった。 おかしいなぁと思っただけで、すっかり忘れたいた。 友人の話ではどうやら自殺らしい。
 お金のやり繰りに困っていて、借金があったということは本人の口からも聞いて知っていたのだが・・・まさか、この年暮れに死ぬとはなぁ・・・
 

 大工としての仕事の腕は中々なものだし、仕事熱心で十数年前ほどから元受の棟梁をして何軒か家を建てている。 五、六年前に建築費用だけで一億数千万円の見上げるような立派な家も建ている。 オフの八尾の山の家の解体と基礎と土台、屋根工事は彼に頼んでやってもらったが、その時オフも大工小屋へ通って土台や母屋の木を刻む下仕事をした。 ちょうどその頃オフは半年間の予定で職業訓練学校の営繕科へ通っていたのだが、そこで教えてもらったことはあまり身に付かなかっただけなく、下らないことが多かったが大工小屋ではいろいろなことを学べた。 その後オフの両親の家が都市計画に引っかかり近くへ移転になったときも彼に仕事を頼んで家を建てたが、その時も3ヶ月ほど彼の元でオフは家作りの手元のようなことをして、家作りの流れを見ていた。
 

 彼は実生活はかなり質素な暮らしをしていたと思うが、酒をたくさん飲むほうではなかった割には外で飲むのが好きで、よく飲み屋へは行っていたらしい。 そういった場所では人が変わったように結構派手な振る舞いの様子だったという話だったが、外で飲まないオフの知るところではない。 しかし今は少なくなったかもしれないが昔の職人気質の人には仕事は出来るのだが、そういう無茶苦茶な手合いは結構いたものだが・・・。
 数年前、奥さんを癌で亡くし、昨年だったか再婚をしている。 電話で教えてくれた友人の話では、世間の話ではそのバツイチの嫁さんも結構派手好きな性格だったと言って、借金の外、暗にそのようなサゲマンな嫁さんをもらったことも死期を早めた原因の一つと噂しているらしい。
 これはオフの憶測に過ぎないが、多分その新しい嫁さんと良い仲になる過程で無理をして派手なたぐいのことをしたいたのではないかと思う。 また借金のことは嫁さんに隠して一緒になったのかもしれない。 一緒になって隠しきれなくなりそのことで内輪揉めが重なっていたのではないだろうか。 けっして新しい嫁さんだけが一方的に悪いわけではないだろう。 どれだけの額の借金があったか知らないが、これでオフの貸した幾ばくかのお金も戻らないが、まあ、致し方ない。

 オフが大工仕事のことを聞くと嫌な顔一つせず、よく紙に図を書いてこのような仕事になっているものだとか、このような手順を踏むものだとか、丁寧に教えてくれた。 また、山の家の仕事をしている頃、フラリとやってきてオフの仕事の跡を黙って見ていて、時々これはどのようにやった?と大工では決してやらない仕事などについては逆に質問したりしていた。 大工仕事ではこの人がまさにオフの師であったのだが・・・ 

 
  今日の仕事

 昨日の鴨居の仕事が気に入らないので、少し直し少し直ししていてだんだん鴨居の厚みがなくなっていったが、途中で止めようにも止めれなくなってしまった。 どこまでやってもこれで良しとはならないので、お昼前に一応これで終わりとして慎重に溝を切って無事取り付けが終わった。
 午後からは、これまでどうしょうかと迷っていたのだが、一昨日立てた柱は地面にすれすれのところに埋まっていた石の上に置いていたのだが、やはり下に基礎のブロックを置くことして、羽子板で止めることの出来る基礎やセメントを買いに行った。
 ついでにこれもやり替え仕事になってしまうのだが、この間立てた半柱や柱六本に補強の金物を取り付けることにして、それらもついでに買ってきた。 板などの相ジャクリをする場合、大工さんは簡単にやる場合は小型の小穴カッターと呼ばれる溝切りカッターを使っているのだと金物屋で聞かされて、たまたま手元にお金があったのでそれを買うことにした。 これでこれまで木工機械がないからとあきらめていた少々の相ジャクリなどが自分の手で出来ることになり、割高の出来合いのものを買わなくて済むし仕事の幅もかなり広がるはずである。