漆喰塗り

 ここのところ仕事に追われていたが、気が付いてみると向かいの山が紅葉している。
 山の斜面には杉の木が植えられているが、稜線のあたりは広葉樹でそれらの木々の葉が紅や黄色の真っ盛りだ。
 この山は上林川を挟んで向こう側の山で、ここからは距離にして300メートルぐらい離れているだろうか、距離的にいってもここからはちょうど見ごろの位置である。 この部屋の窓から向かいの山のふもとの茅葺の古民家もかろうじて見えていて、まさに日本の秋を絵に描いたような風景である。 この山の向こうは京都府和知町由良川沿いに山陰線と国道27号が走っている。 反対の北側は菅坂峠を越えて舞鶴湾である。
 当地の最近の気温は朝の最低気温が北陸並み、晴れた日中の最高気温は近畿並みで一日の寒暖の差は大きく、どちらかといえば盆地的な気候である。 


 今日の仕事

 朝一番に嫌な仕事、昨日ブロアーで吹き飛ばして落としたゴミや埃を掃除する。
 最初大型の掃除機で吸い取っていたがしばらくして吸い込みが悪くなり、結局箒と塵取りを使って掃き掃除をしたが、この方がよほど早く終わる。
 でも最後は防塵マスクをしているのだが息苦しくなった。 長年の埃とはものすごいものである。

 その後、昨日中塗りした砂漆喰の上に漆喰を練って上塗りしていく。 最後水を掛けてなんとかくっ付けたネットはちゃんと付いていて剥がれて来なかった。 今回中塗りの後まだじゅうぶん乾いていない状態に上塗りするのだ、と左官材料店で教えられた。
 まったく知らなかった。 以前山の家をを塗った時は、中塗りがじゅうぶん乾いてから霧吹きで水を掛けて表面を湿らして上塗りをしていた。
 しかし、このやり方だと上塗りが塗り付ける後からすぐ乾いてきて籠手で均して綺麗な仕上がりにするのは到底無理だった。 上塗りを中塗りが半渇き状態でやればきわめて楽なのである。 上塗りの漆喰がスーッと伸びて綺麗な表面になるしデコボコ調整もやりやすい。

 午後からは残った漆喰に漆喰の粉と砂と水とを混ぜてミキサーでかき回し砂漆喰を作り中塗りをする。 この捏ねる作業がミキサーを使えるというのはうれしい。 以前のように一人で捏ねて、その後それを塗っていくのはかなりキツイ仕事だった。 一般的に左官屋は一人仕事はしないで、たいてい二人以上で仕事をしている。 時間に追われるし何から何まで一人でするのには向いていない仕事なのだろうと思う。 ただミキサーはモルタルや砂漆喰などサクサクしたものを捏ねるのには向いているが、漆喰を水だけで練る、つまりネトネト状態のものを練りこむのはあまり向いていない。

 今日も午前、午後と塗りをやったが3時過ぎには腕が痛くなりはじめ、4時には終了とした。 これ以上やると以前のように腱鞘炎が出そうである。
 以前山の家をやった時最もひどい時には、朝起きると右手が腫れたまま固まってしまっていて、指を動かそうにも動かなくなっていた。 
 しばらくしてから、反対の手で指を握ってそっと折り曲げたりして動かしていくとようやく動きはじめる。 そんなことが毎朝続く、そのうちに親指が付け根のところから痛くて力を入れることが出来なくなった。 親指を使わないで他の四本の指でやっていると次はおかしなことに薬指の付け根も痛くて動かせなくなった。
 仕方なしに籠手を指で握らずに、その握り手の後ろ端を手の腹に当てて動かして壁塗りをして何とか壁塗りを終わらせた。 その時である、もう二度と壁塗りはしない、と思ったのは・・・
 むかし近所に左官屋のおじいさんがいてよく昼間銭湯に来ていた。 その人の右手の指は普段も籠手を握っているように曲がったままであって、おかしな指だなぁと思っていたことが思い出される。