壁塗り

腰の具合はだいぶ良い。 背中が少しかぶれ気味なので湿布を止めたし、コルセットも摺れるのでそこが痒い。
 お昼に嫁さんから郵便物が届いた。 湿布薬とまさかの時のための痛み止めの座薬が入っている。 中身については電話で何が入っているか知っていたが、裏の差出人のところを見ると姓がオフと同じになっている。 籍を入れたのだから当然なのだが、文字にして書かれた名前として見るのは初めてなのでアレレ・・・となんだかこちらも少し照れくさい気がする。 見る側がそうなのだから書く本人はもっと照れくさいような、おかしな気分になるものなんだろうかなぁ。
 それを見ながらあらためて、ああ、再婚したんだなぁ・・・と思った。



 今日の仕事
 
 今日よりいよいよ壁塗り作業だが、ほかのチョイトした事をしたりしてなかなか取り掛かれない。
 まず床の間の棚を一昨日買った来た連結金具で繋いだ。 寝転がって棚の裏に入って金具をビス止めしていく仕事であるが、ちょうど目の上のとかろで上を向いてする仕事はけっこう腕が疲れるものである。 その仕事をしていて棚の下の地袋の内部になるところだが、予定では塗り壁するつもりでラスボードが張ってある。 しかしこんな狭いところに塗り壁作業は大変なので、急遽ラスボードの上にさらに石膏ボードを張ることにする。 少しは切れ端のボードが余っているのである。
 それも終わりいよいよやることがなくなって、マゼラーと野暮な名前の付いているモルタルミキサーを東側の壁面に移動する。 このミキサーは60キロ以上もありキャスターが付いているとはいえ庭の植え込みの狭いところの一人での移動などは大変である。
 さらにセメント、砂、水などを運びいよいよだなぁと思いながら、壁面に化粧で付けるツケヌキを忘れていることに気が付いた。 割り付けて見ると手持ちのヌキではあきらかに足りなくて、材木屋へ車で走ってさらに三本買って来る。 そのヌキにカンナを掛け所定の大きさに切り、割り付けたところへ取り付ける。 これでこそもう後やることは壁塗りしかなくなった。
 これまで何だかんだとモチャモチャしながら壁塗り仕事を後に回してきた。 これまでと違う新しいことを始めるのはどこか面倒だなぁという気持ちが働いているのだ。 ほんの軽い欝状態なのである。 本当をいえば壁塗りを後に回して座敷の床板の取替えという作業があることはあるのだが、季節が少しずつ寒いほうへと移っていっている、もうこれ以上先へとは伸ばせない。 
 以前山の家を改装した時は、その大きさもあるが壁面が内外と半端でなく沢山あった。 二年間一人で壁塗りをしていた、当時大学生だった下の息子がアルバイトで少し手伝ってくれたが・・・外壁に一年、内壁に一年。 外壁も内壁も下塗り、中塗り、上塗りと一人でやった。 もちろん壁塗りに伴いその前にやっておかねばならない仕事、壁内の電気の配線やコンセント電気器具の取り付けや配管工事などなど、も含めてだったが・・・。 さすがに終わった時はもう二度と壁塗り作業はしたくない、という気持ちになっていた。
 でも壁塗り仕事というのは一日の作業が終わったとき、今日の自分の仕事を、今日ここからここまで塗ったんだなぁ、と直に目で見て確認できる喜びがあった。 そして明日はここからここまで塗れそうだなぁ、と明日の予定を確認して帰る時の満足感は何ものにも代え難かった。
 それまの20余年間お金儲けのために仕事をしていたが、自分の仕事を一日の終わりにここまでやったんだ直に目で確かめれることはほとんどなかった。
 さて、マゼラーを回しながらまず砂を少し入れ、さらにセメント袋25キロを全部放り込む。 しばらく回した後水を加えていって、水にセメントを溶いたノロ状態にして砂を加えていく。 昔はモルタルは砂3に対してセメント1と習ったが、最近のものはセメント2に対して砂5となっている。
 以前山の家をやったときはこれらの混ぜる作業を毎日クワとシャベルを手に人力でやっていたのだなぁ・・・。
 水の分量が少し多かったので、やや軟らかいモルタルになってしまった。軟らかければよく伸びるので力は少なくてすむのだが、ポタポタとそれだけ落ちやすくなる。 モルタル塗りだけでなく左官屋仕事は漆喰でもプラスターでもそうなのだが、いったん練ってしまったら急いで塗らなくてはならないし、途中で止めれない。 材料がどんどん硬化してきて使い物にならなくなるからだ。
 初日の今日は最後はへばった。 普通なら草臥れた時点で後は明日の仕事だ、と止めるのだが、遅れれば遅れるほどモルタルが硬化してきて重くて延びにくく力を入れないと塗りにくくなるので、さらに疲れ倍加する。 そして終わった後、使った器具やマゼラーなどを水洗いしないと固まってこびり付いて取れなくなる。 それに落ちたモルタルや柱などに付いたモルタルは早いうちに拭き取って置かないと取れなくなる。
 結局ライトをつけながらそれらの作業をやった。 終わった時は真っ暗で、西の空にはきれいな三日月と金星が光っていた。