ギンナン

 ひねった薬指は、内出血しているのだろう赤紫色に腫れている。 ジッとしていると痛みはないのだが、何かにつかえたりすると痛みがある。
 風呂に入ったり酒を飲んだりしても、痛みが増すということがないのでありがたい。 嫁さんにネツサマシートなるものを貼ってもらうが、最初は患部が熱くなりその内に少し冷んやりしてくる。 消炎作用があるというのでムリヤリ座薬を入れられるが、これを入れるとオフはたちまちウンコがしたくなるので困るのだ。 


 午後から仕事をしていると、裏の勝手口の戸が開いて誰かが入ってきた。 ここの家の前の住人である奥さんと息子だった。 二人とも黒い喪服を着ていて、当部落の何処かの家の葬式に来たついでに立ち寄った、と言う。 家の中を一通り見てまわって、いろいろ変わりましたねぇ、と感心しながら帰っていったが、今は未練もなくサバサバした感じがして元気そうである。 


 普段使わない食品をダンボール箱に入れているのだが、小麦粉が少なくなったので箱の中を見てカボチャ大のナイロンの袋に入ったギンナンを見つけた。 昨年の暮れ田舎に帰った時に、家の裏玄関に置いてあったものを持って帰って来ていてすっかり忘れていた。 見ると殻の表面に少し黴が生えてきている。 袋を破って中身を出して流水で洗って笊に上げて乾かしておいた。 このギンナンはオフの家にある銀杏の木に実ったもので、前の商売の従業員だった夫婦が拾ってくれたものの一部である。 そのギンナンを最近一握りづつフライパンで炒って酒の肴として食べている。

 銀杏の木はソテツなどど同様現存する樹木としてはかなり古く、恐竜などが生息していた時代よりもっともっと以前から地球上にあったと言われている。 言ってみればいろんな気候や環境の変化に耐えて長い時代を生き延びてきた木である。 その生命力はものすごいものがあると言われているが、銀杏の木には雄と雌の木があって、ギンナンが実るのは雌の木だけである。 オフの田舎の家に生えているのは雌の若木だが、すぐ近くに植木屋が元の中学校から移植してきた雄の大木があるので、沢山の実を付けるのだ。 田舎の中学はもともとは小学校であって、オフが小学生の頃校庭に二十本ほどの銀杏の木があって、休み時間に競争してギンナンを拾い集めることが流行ったことがあった。 授業が終わると男の子たちはわれ先に階段を駆け下りて校庭へ走り出て、ギンナンを拾い集めた・・その後その集めたギンナンを食べたのか、どうしたのか記憶には残っていないが、そんな数十年前の思い出がある。


 今日の仕事


 忘れていたボード張りを一箇所終わらせてから、力を入れるわけではないので手に負担が掛からないと思い、リビングの床に一度目の塗装をする。 色はやや濃いブラウン色。 床材は杉なので滲みこみもよく、塗りムラも少なくスムーズに終えることが出来た。