壁塗り

 以前山の家を改装したとき、生まれて初めて壁塗りをした。 外壁、内壁と全部塗り終わった時、やり終えた達成感というより、やっと終わったかという開放感が大きく、もうこれで二度と壁塗り仕事はしないぞ!と思ったものである。
 それほど壁塗りは大変だった。
 朝起きると右手の指が籠手を握った状態で固まっていて、指が動かせなくなっていた。  しばらくそのままにしていてから、左手で指を一本一本握ってそっと動かしてやる。 そんな毎朝だった。 ところがその内に右手の親指の付け根に鋭い痛みが走るようになり、親指に力を入れることが出来なくなった。 仕方なく親指を使わないで立てて籠手を握って塗り壁を続けたが、その内におかしなことに薬指の根元も痛むようになった。 そうなるともう指は使えない。 そこで籠手の握りの後側を手の平の真ん中に当てて、そこに力を集めてなるべく指に力を入れないようにして壁塗りを続けた。
 なるべく風呂へ入るようにして、湯船の中で右手の指をゆっくり揉んで、ほぐすようにしていた。それがまた、綾部まで来て壁塗りをやっているとはなぁ・・・


 昔、近所の左官屋のおじいさんがよく昼一番に銭湯に来ていたが、そのおじいさんの右手は籠手を握った状態で固まっていたのをオフは不思議なものを見る思いで見ていたものだ。 そのおじいさんは風呂上りに牛乳一本を必ず飲むのだが、蓋をしたままの牛乳瓶を口に頬張ってその蓋を外す特技の持ち主だった。 それと飲み終わると壜の口を左の手の平に二、三回ポンポンと叩きつけ、残っていた牛乳を手の平に受けた後、その手の平をペロリと舐めるのだが、その一連の所作が、イヨッ!と声を掛けたいほど毎回ピシッと粋に決まっていた。 
 

 今日の仕事


 午前中は昨日の仕事の後始末。 といっても壁の縁まわりに付いた石膏は固まらない昨日のうちにヘラで落としておいた。
 落とした石膏クズを掃いて捨てて柱を濡れ雑巾で拭いていく。 そして今日やる箇所を整理する。 今日は玄関上の壁面を塗るつもりだが、そのために残してあった単管で組んだ足場を外す。 結局脚立を立ててやることに変更した。
 時間が余ったので綾部へ来るまもなく死んだマロ君の犬小屋を解体する。 
 午後から壁塗り。 ダイニング横の茶の間を塗り、玄関に移り壁面を下から順に上へと塗って行く。 玄関の横の壁は天井が二間(3・6メートル)と高いので、壁面がべタッとしてしまうので化粧ヌキを入れて壁面を三つに区切っている。 
 今日もおおよそ一袋20キロを塗って終わりとする。 午前と午後がんばればその倍の40キロは塗れるのだが、壁塗りはまだまだ続くのである。 
 疲れが残らない程度にしておかないと、腱鞘炎などが出ると大変である。 今でも夜中に目が覚めたときなど腕が少し重くだるい感じがしている。
 その後籠手やパレット、ミキサーも洗って石膏を落とし、一息ついてから壁に付着した石膏をヘラで落として柱などを水拭きしておく。
 今日で10袋買ってきたBドライを半分の5袋使った。 新たにラスボードを張ったところだけをこのBドライを塗る訳で、座敷などの仕上げ壁の箇所や土壁の中塗りの箇所は、下プラと呼ばれる下地塗りの石膏を薄く延ばして塗ることになる。